校長室より

校長  鈴木 雅文

令和5年度

令和5年度 後期終業式 式辞 (2024/03/19)

 さて、今日は今までの西高生活を振り返り、今後の1年、2年と続く西高生活に向けて決意を新たにするために、二つの話題を提供します。

 一つ目の話題は、本校の「スクール・ポリシー」です。特に、西尾市内の中学校の出身者は、中学三年生の時、私がお邪魔した高校進学説明会の場で私がしっかりと話したはずですが、覚えていますか。

 私が話をしたのは、「西尾高校にはどんな中学生に入学してほしいか」という部分です。この部分は、三つの内容からなっています。一つ目、「高校生活における明確な目標をもち、目標達成に向けて不断の努力を惜しまない人」。ここのポイントは「高校生活における明確な目的をもつ」ことでしたね。君たちはこの西高で成し遂げたい何か目標をもっていますか。それとも見失いましたか。はじめからありませんでした、ですか。目標が定まらない者は、今からでも遅くないので、新学期までに西高在学中の目標を立てなさい。

 二つ目、「他者や社会の価値観を共有しながら、自分の考えを言葉で表現したり、良識ある行動を取ったりすることができる人」。ここのポイントは「自分の言葉で表現する」ことでしたね。たまにみんなの授業を参観すると、それなりに周囲の者と言葉のやり取りをしている姿が見られますが、まだまだのことも。今も、そしてこれからも社会はますます多様化していきます。黙っていても以心伝心、阿吽の呼吸で物事が運ぶわけはありません。「自分の考えは自分の言葉で主張する」、このことを西高在学中に鍛えてください。

 三つ目、「自己の進路目標の実現だけでなく、特別活動や社会貢献活動に積極的に取り組みたいと考えている人」。人間、だれしも自分が大切です。しかし、十分の一でいいから世の中や他者のためになる行動をとりましょう。卒業式の式辞でも述べましたが、その行動は確実に自己有用感を育み、周りのためになるだけでなく、人生を充実したものにするものです。ぜひ、かかわってみたい活動を具体的に挙げて実践してみましょう。

 二つ目の話題は、別れと出会いのこの季節に即してです。本日をもって各クラスは解散し(別れ、ですね)、来月8日には新1年生を迎え、翌日、新たなクラスがスタートします(出会い、ですね)。別れを惜しみ、出会いに不安を感じている人へのメッセージです。

 中村 哲さんを知っていますか。パキスタンやアフガニスタンで医療活動に従事したり、現地の人々のために水道を引いたりするなどの事業を成し遂げたお医者さんです。2019年、現地で銃撃を受けて亡くなられました。その中村先生が座右の銘としていた言葉が天台宗の開祖・最澄の「一隅を照らす」でした。この言葉の意味は、異説もありますが、「一人ひとりが自分のいる場所を自ら照らせば、それが積み重なってこの世全体が照らされる」ということです。

 つまり、「一隅を照らす」とは、自分がその時々に置かれている場所で、精いっぱい自らができること、するべきことに誠実に取り組んでいくことだと言えるでしょう。新しい環境の中で、うまくいかないと思い悩むとき、そんな時は「一隅を照らす」、今いる場所で一生懸命過ごしていくことを心にとめておいてください。きっと前途が開けるでしょう。

 君たちのこれからの更なるステップアップを期待し、私から西高生に送る最後の式辞とします。

第76回 卒業証書授与式 校長式辞 (2024/03/01)

 矢作川を往く水はまだ冷たく、あたりに凛とした空気を醸し出していますが、その水面に反射する陽光に、春の訪れを予感させる季節になりました。

 本日、愛知県立西尾高等学校第76回卒業証書授与式を、PTA会長・横山 博様、同窓会長・三浦眞澄様をはじめ、御来賓・御家族の皆様の御臨席を賜り挙行できますことに、厚く御礼を申し上げます。 

 さて早速ですが、ただいま母校の卒業証書を手にした353名の卒業生に、私から「おめでとう」のお祝いの言葉とともに、餞の言葉をおくります。それは、私が期待する、君たちが主役となるこれからの世の中のあり方、そして君たち自身のあり方についてです。

 去年、宇和島市に出かけました。宇和島は人口6万8千人、伊達氏十万石の城下町としての歴史をもち、漁業やミカン栽培が盛んな愛媛県南西部の中心都市です。

 この街では年4回、闘牛が開かれます。有名なスペインの闘牛は、牛と人間との闘いですが、宇和島の闘牛は牛対牛、格闘時間は無制限、逃げた牛が負けとなる真剣勝負です。

 相撲に賞金が出るのと同様、宇和島闘牛でも給金と呼ばれるファイトマネーが支給されます。ただし、相撲と違うのは、給金は勝った牛に4割、負けた牛に6割が支払われるということです。

 世の中の常識では、勝者がより多くの賞金や地位や名誉を手に入れることになっています。そのことでわれわれには、「勝ちたい」「人よりも抜きん出たい」という意欲が生まれ、その結果として人間社会は進歩、発展してきたことは否定できません。

 しかし、宇和島闘牛の給金は勝牛が4割、負牛が6割。このことには、実際に傷ついた牛はもちろん、愛情を惜しみなく注いで育ててきた牛の敗北に心を痛めた、牛の主人に対する慰めの意味が込められているそうです。

 私は、宇和島の闘牛は、勝者になることだけを考え、自分がよければそれでよく、他を顧みることがない自分本位の生き方が、ともすると称賛される風潮にある最近の世の中に、警鐘を鳴らしているように感じます。

 勝つこと、成功することは必要なことです。しかし私は、誰かが必ずその対極である、敗北、失敗の立場に置かれるのだ、ということを弁える、そんな世の中であることを希望します。

 数年前、東海道を歩いていて、著名な寺院の門前にさしかかりました。そこに、このような言葉がしたためられていました。

 「命は大切だ。命を大切に。そんなこと何千何万回いわれるより、『あなたが大切だ』。誰かがそういってくれたら、それだけで生きていける」。

 私は、前期終業式で「自分を大切にできる者だけが、本当に他人も大切にできる」と述べました。「あなたが大切だ」と、他者に本当に寄り添うことができるのは、自分を大切にして生きている人間だけだと思います。

 自分を大切に生きるとは、自分本位に生きることではありません。自分というかけがえのない存在を他人と比べることなく、ありのままに受け入れることで生まれる自己肯定感や、自分の存在が周りに役立っている、貢献していると思う自己有用感をもちながら、いわゆる「ノリ」のようなその場の感情に流されることなく、自分を慈しみ、大切に生きることだと思います。

「自分本位に陥ることなく、自分を大切にしなさい」

 これが私の、皆さんに向けた餞の言葉です。皆さんの前途が希望に満ちたものであることを願っています。

 最後になりましたが、御家族の皆様、本日は誠におめでとうございます。これまでの本校の教育活動に寄せられました、皆様の深い御理解と御支援に対しまして、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 今旅立つ、西尾高等学校第76回卒業生の、健康と幸せを祈念し、式辞といたします。

 令和6年3月1日

愛知県立西尾高等学校長 鈴木 雅文

令和5年度 後期始業式式辞  (2023/10/04)

校長 鈴木雅文

 先ほどの前期終業式では、おもに3年生向けに話をしたので、後期始業式は1・2年生を念頭に置いた話をします。

 前期の年間行事は、今までの1学期中間考査がなくなった程度で、ほぼ昨年度までと同じスケジュールをこなしてきました。しかし、後期は少し趣が違ってきます。それは、新たに西高独自の休業日「探究の日」が明日、西高は来月22日に「県民の日学校ホリデー」を設定、そして、3月末までに2日を上限に取得できる「ラーケーションの日」が導入されるからです。

 それぞれ説明しましょう。まず、「探究の日」です。今年度から1・2年生の「総合的な探究の時間」において「西尾学」を導入しました。1年生は先日夏課題の発表、2年生は全体発表まで終わったと思います。「探究の日」は、自分たちが「西尾学」で学んだ成果や課題について、現地や資料館などに出かけて行って実際に確認する日、としています。ともに探究したメンバーとともに自分の目で確認できるとよいでしょう。

 11月22日の「県民の日学校ホリデー」は、昨年度、11月27日が「県民の日」と定められ、その前の1週間、すなわち11月21日から27日までが「あいちウィーク」とされました。この期間中の1日を各学校が「県民の日学校ホリデー」として学校休業日に指定し、家族などと一緒に、地域における体験的な学習活動に参加することなどが求められています。

 「県民の日」は、全国18の都道府県が設置しており、関東地方を中心とする6都県が学校を休みにしているので、ここまでは珍しいものではありません。が、全国の都道府県初となるのが「ラーケーションの日」です。

 ラーケーションとは、ラーニング(学び)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語で、生徒が保護者などの休日に、保護者とともに家庭や地域で、体験や探究の学び・活動を実践することができる日です。原則1週間前までに届け出をすれば、欠席にはならず出席停止の扱いになります。いずれにせよ、体験的な学びの機会とすることが目的なので、特にラーケーションの日については、この目的に沿うように活動計画を立てたうえで取得を考えてもらいたいと思います。

 私が教員になったのは、昭和61年のこと。今から38年前です。そのころ、探究の日、学校ホリデー、ラーケーションの日などが設置されるとは、これっぽっちも思いませんでした。しかし、愛知県の高校の教育活動はこの数年で大幅に変わったし、これからも変わり続けるでしょう。

 西高には今の1年生が卒業した一月後、附属中学生が入学してきます。例えば、生徒会組織。中学生と西高生の生徒会組織はどのように連携しますか。例えば学校行事。西高の学校祭に彼らをどのように取り込みますか。例えば部活動。彼らには何部が必要でしょうか。

 現2年生が受験する大学入試から、その内容がかわります。それに対応するためにはどのような学力が求められますか。

 変化し続ける、君たちを取り巻く環境に翻弄されるのではなく、正面から受け止めて折れてしまうのではなく、風になびく柳のごとく、しなやかな心をもって激変期にある今を過ごしてもらいたいと思います。

(2023年10月4日体育館にて)

令和5年度 前期終業式式辞 (2023/10/04)

校長 鈴木雅文

 西高は今年度から前期・後期の2学期制を導入しました。今のところ、2学期制がどうにも不都合だという声は聞いていませんが、改善が必要だと思われることがらがあれば来年度、可能な限り改善していこうと思うので、声を聞かせてください。

 さて、前期は球技大会、校外活動、学校祭など、3年生が学校行事に参加していますが、後期の体感ウォーク、球技大会は1・2年生限定の行事、実は後期は3年生が参加する学校行事は一つもない、つまり3年生は、既に前期で学校行事から引退したと言えるでしょう。

 西高は、ほぼ100パーセントの生徒が上級学校への進学を希望する高校なので、3年生はこれからの5か月余りを自分の進路目標達成のため、一心不乱に対策することが求められるのは当然です。

 前期、学校行事の季節には、3年生はみんなで声を掛け合い、意見を出し合い、みんなで目標に向かってぶつかり合ってきました。いわば「動」の人間関係を育んできたことと思います。

 さて後期、3年生は「静」の人間関係を育む時期です。そのために、「自分を大事にしなさい」という言葉をおくります。もちろん、この言葉を「自分さえよければ他はどうでもよい」という利己主義の文脈で用いていないことは理解してもらえると思います。

 では、この言葉が「静」の人間関係作りとどう関係するのか。それは、「自分を大事にできる者だけが、ほんとうに他人も大事にできる」からです。

 どういうことか。大学入試は、個人戦でもあり、団体戦でもあります。例えば、一人で机に向かうのは個人戦だし、例えば自分が安易な方向に流れそうになった時に、友だちの頑張る姿を見て挑戦する力を取り戻す、などは団体戦だといえるでしょう。

 自分を大事にしながら孤独な個人戦を戦う者だけが、「みんなで乗り越えよう」という静かだが周囲を大事に思い、思いやる雰囲気の中で団体戦を戦うことができます。このことが、学校行事で得ることができた「動」の仲間たちと同じく、「静」の仲間たちとして、かけがえのない関係を育むとともに、西高全体の大学入試結果の飛躍につながると思います。

 3年生の状況を引き合いに出して話してきましたが、「自分を大事にすること」はもちろん、1・2年生の西高生活にも当てはまります。面白くないこと、うまくいかないことは多々あります。しかし、投げやりになって自分を貶めてしまった状態で、周囲の人を思いやることができるわけはありません。自分を大事にすることは、こんな時こそ大切なのです。今後、自分の西高生活が暗礁に乗り上げた時こそ「自分を大切にしなさい」という言葉を思い出してみましょう。

 先月流行していたコロナや、インフルエンザについては、状況が落ち着いてきています。現在は感染流行時の対応を取っていますが、近いうちに平常時の対応に戻すことができるものと期待しています。とはいえ、感染症は一般的に、寒くなるにつれて流行しますので、油断なく日常生活を過ごしてください。

 以上で前期終業式の式辞とします。

(2023年10月4日体育館にて)

坂の町・長崎
【修学旅行のしおり 巻頭言】

校長 鈴木雅文

 長崎は坂の町である。その市街地の約7割は斜面地であることから、坂が多いのも当然だ。有名なオランダ坂を始め、多くの坂には名前が付けられている。またよく観察すると、旧外国人居留区を中心に坂の脇に三角溝と呼ばれる排水溝があり、水流の速さを調節するために溝の形を坂の上部からU字、中ほどはV字、そして下部は方形へと変化させて、流れをスムーズにしてごみが溜まらぬよう工夫されている。そして斜面地では、街中に買い物に出かけた帰り道、自宅よりも高い場所にあるバス停までわざわざ乗り越して、階段を下って自宅に帰る人も多いらしい。上るより楽だからだ。

 長崎は坂の町である。しかも急な坂が多い。なので、利用が敬遠される交通手段がある。そう、自転車である。グラバー園近くの某自転車商会の店内には30台近くの原付が置かれているが、自転車は中古が2台だけ。自転車は半年に一度売れればよい方という。どこが「自転車商会」なのか理解不能だ。それもそのはず、少し前の2018年の調査によると、長崎県の1世帯当たりの自転車保有台数は推計0.56台で全国最下位。ちなみに全国平均は1.23台。自転車が売れないことが納得できた。また、オランダ坂などには「自転車通行禁止(下りのみ)」などという愛知県ではまず見かけない標識がある。自転車に乗っている人も本当に見かけないし、いてもアシスト付き自転車だ。更に、長崎市内には自転車に乗ることを禁止している小学校があるとか、2人に1人はそもそも自転車に乗れないという話も聞く。本当だろうか。

 長崎は坂の町である。そして、長崎港を囲むようにすり鉢状になっている斜面地が光の奥行きをもたらすことで得られる、夜景の美しい町としても知られている。しかし、この美しさを演出する斜面地の街灯(住宅の灯を含む)が、2040年までに現在の2~3割程度になるという研究結果がある。これでは夜景の広がりが期待できず、観光シーンとしての魅力が削がれてしまうだろう。

 街灯の減少は、人口減少が主因である。昨年、長崎市の人口は初めて40万人を割り込んだ。死亡>出生の自然減に加え、転出>転入の社会減の割合も大きい。人口流出(=転出)が深刻な原因はいくつも考えられるが、その一つに長崎は坂の町であることが挙げられる。坂の町だから、海沿いの平地が少なく平地の住宅家賃が高い。また、高齢化が進む中、斜面地に住む高齢者が坂を上り下りする際の身体への負担は大きく、いつまでも斜面地に住み続けられない。かといって市内の平地の住宅家賃は高い。そこで市外に転居、となるわけだ。

 長崎は坂の町である。長崎市内班別研修では、ぜひ長崎の坂を探訪してもらいたい。できればそこに居住する地元の人々にいろいろと尋ねてもらいたい。その結果得られた生の情報が、きっと次なる好奇心を呼び起こすことになるだろう。

「おいしい」国公立大学総合型選抜とその課題
【進学の手引き 巻頭言】

 校長 鈴木 雅文

 今、総合型選抜を導入する国公立大学・学科の数が右肩上がりで増えている。実施大学数は、平成30年度入試において50.3%と半数を超え、昨年度入試では58.4%、学部数は令和3年度入試において前年の47.2%から53.4%と飛躍的に伸び、半数を超えたのちも増え続け、昨年度入試においては55.7%の学部で実施されている。

 なぜ総合型選抜が増えているのか。一つには、国立大学協会が「総合型選抜や学校推薦型選抜などの丁寧な入学者選抜の取組を加速・拡大する(2022年1月「基本方針」)」と言及したこともあるだろう。しかし私は、大学の教授が総合型選抜は「おいしい」ことに気付いた結果だと思っている。どういうことか?教授は研究室やゼミを主宰し、所属する学生の教育・研究活動の指導に当たる。教授はそれぞれ研究分野・テーマをもっており、所属学生にはそれにふさわしい資質・能力を求める。つまり、総合型選抜を通じて大学入学前から自分の研究の後継者たるにふさわしい人材を確保できると同時に、入学後になってから学生の資質や適性を見究めるという面倒臭いプロセスを省略できる、という二大メリットがあるわけだ。これは確かに一粒で二度「おいしい」だろう。

 総合型選抜は、共通テストを課さない場合は遅くとも年末には、課す場合でも2月中旬に結果が出る。早期に進学先が決まればじっくり下宿も探せるし、自分が関心をもつ分野の読書や勉強もできる。仮に不合格であっても、一般選抜にも出願できるのは魅力的だ。一般的な選抜方法は、9月以降出願し、志望理由書・活動報告書等をもとに一次選考、面接、小論文、適性試験等が課される二次選考と進み、共通テストを課す場合はその得点も加味しながら総合的に合格者を決定するという流れである。

 受験生も「おいしい」と思うのは当然だが、いくつか課題がある。1点目は、総合型選抜に向けた提出書類、小論文、面接などの対策を、共通テストや個別試験に向けたいわゆる“受験勉強”と両立できるかということ。つまり自分の持ち時間の問題だ。2点目は、志望する大学・学部(研究室)と自分の関心や資質がぴったりマッチングできるかである。前述のように、この選抜は教授の意向がかなり影響する(と、私は思う)ので、研究室が実践・計画している研究内容、課題、目標を見究め、自分にマッチするところを志願する必要がある。そのためには「自宅から通える範囲で」などと言ってはおれない。3点目、これが最大の課題だが、多くの大学は二次選考で小論文・面接が課される。早期の小論文や面接対策が必要だが、これらが付け焼刃になっている感は否めない。

 2、3点目の課題は、学校が組織的かつ効果的な指導体制を構築することも必須だが、それ以前に、生徒が「自ら課題を見つけ、自分の言葉で考え、判断し、結果を分かりやすい文章等で表現する」力を一定のレベルで身に付けている必要がある。このレベルに一応届いている西高生がどれだけいるか、いささか心許ないが、自分は何を研究したいかを具体的に掘り下げた結果と、それを学ばせたい研究室とが見事にマッチすれば、こんなに「おいしい」チャレンジはない。それが総合型選抜である。

令和5年度 PTA総会 挨拶(2023/05/19)

校長 鈴木雅文

 皆様、本日は何かとご多用のところ、お運びいただきましてありがとうございます。お伝えしたいことがいくつかありますので、少々お時間をいただいて説明いたします。

 まず、コロナについてです。この8日からコロナの感染法上の扱いが5類に移行したことを受け、本県の教育活動のガイドラインが改訂され、かなり制限が緩和された、というよりも平時においては明確に制限されることがほぼない、という状況に学校の教育活動も置かれました。今後は、今月9日に配付した「お知らせ」のとおりに進めてまいりますので、よろしくお願いします。なお、この「お知らせ」の文書については、ホームページでも確認できます。

 毎年ゴールデンウィーク明けに開かれるこのPTA総会、私は昨年度の挨拶で「さて、学校は昨日より中間考査に入っています。」と切り出しましたが、御承知のとおり今年度から前期・後期の二学期制としましたので、前期の中間考査は1か月後の6月中旬になります。定期考査などのペーパーテストは、生徒の知識を測るには適切な手段ですが、「主体的に学習に取り組む態度」を評価するためには、ペーパーテストが主体となる評価ではその学力を十分に評価できるものではありません。レポート、行動観察、ポートフォリオ評価など、教科によりさまざまな方法で学習状況を測るためには、ある程度の評価期間が必要であり、そのための措置として二学期制を導入しましたことをご理解願います。

 次に、令和8年度に、現在の小学校4年生の年代を第1回生とする本校の附属中学校が開設されて始まる中高一貫教育についてです。先月、中高一貫教育についても協議する「愛知県高等学校再編将来構想具体化検討委員会」が発足し、刈谷高校など、令和7年度から始まる第一次導入校の今後のロードマップが示されました。まず、本年7月には「入学者選考方法の概要」として、「求める児童像」「適性検査、面接などのねらい」「調査書の取り扱い」などが公表されます。そして10月には実施日程や実施方法、選考基準が具体的に示されます。

 時を同じくして、各導入校ごとに「導入校の特色」「教育課程」「日課表」などの教育内容が公表され、さらに11月にはそれらの内容に加え、部活動や給食等、中学生の学校生活に関する具体的なことがらについても、保護者説明会を開催して説明することになります。続いて12月には入学者適性検査のサンプル問題の公表、年が明けた2月には学校名の決定、というスケジュールになります。来年度には中学校の校舎の建築工事が始まり、8月に入学希望者説明会開催と流れていきます。

 本校は第二次導入校ですので、今お話ししたスケジュールから基本的に1年遅れて進めていくことになりますが、それでも来年秋には、付属中学の形が高校も含めた6年間の教育内容とともにほぼ固まっている必要がある、というハードなスケジュールになります。今後、新しい学校をつくるにあたって、PTAの皆様の意見をいただいたり、相談に乗っていただくこともあろうかと思いますので、新しい中高一貫校が素晴らしい学校になるようにご協力をお願いします。

 最後の話題、「県民の日学校ホリデー」についてです。お手元の本日の資料の28ページをお開きください。既に報道などで御承知の方もいらっしゃると思いますが、昨年、愛知県は条例を改正し、今年度から11月27日を「県民の日」と定め、11月21日から11月27日までを「あいちウィーク」とし、県を挙げて「県民の日」にふさわしいイベント等を計画しています。

 「県民の日学校ホリデー」は、生徒たちが家族と一緒に、地域の自然、歴史、風土、文化、産業などについての理解と関心を深める体験的な学習活動などに参加できるよう、学校を休日とするものです。そのような活動を通じて、生徒が愛知県への愛着と県民としての誇りをもつきっかけになるとよいと考えています。

 本校では、今年度は11月22日水曜日を県民の日学校ホリデーに設定しました。現時点では、定期考査など、本校の他の学校行事との兼ね合いも考え、土日等も加えて長い連休になることを避けるため、来年度以降も原則として「あいちウィーク」の水曜日を、水曜日が勤労感謝の日となる年は、木曜日を「県民の日学校ホリデー」に設定する予定でいます。

 また、「県民の日学校ホリデー」は、保護者の有給休暇取得促進もねらいとしていますので、ぜひこの日に有給休暇を取得し、生徒と過ごしてもらえればと思います。

 生徒たちは、PTAの皆様の物心両面にわたる温かいご助力を受けて、西高生らしく、明るく積極的に学校生活を過ごしています。時に躓くこともあろうと思いますが、その時は手を差し伸べて話を聞いてもらえると幸いです。また、生活全般で心配な点がありましたら、お気軽にホームルーム担任に御相談ください。

 少し長話になってしまい、恐縮です。それではこの後の総会及び学年別懇談会について、よろしくお願いします。

令和5年度 前期始業式式辞 (2023/04/07)

校長 鈴木雅文

 昨日の入学式で、入学を許可した新入生360名も加え、さらに先ほど紹介した新・転任の先生方もそろわれて、令和5年度が本日からいよいよ本格的に始まる、きちんとスタートラインに立っていますか。

 年度の初めにあたり、二つの例を引いて「納得解」の話をしましょう。一つ目は知っている人もいるかもしれません。

 ある小学校のクラスで質問しました。「氷が溶けたら何になりますか」。みんなの答は「水になります」。しかし、1人だけこう答えました。「春になります」。冬の寒さが厳しく、雪深い地方の小学校でのお話です。

 二つ目。先月の卒業式でも触れた文筆家の浦久俊彦さんは、小学校低学年の時のある事件をきっかけに、高校卒業まで学校での勉強は全くせずに、授業中に読書ばかりするようになったそうです。その事件とは、「1足す1がなぜ2になるのか?」と、先生に質問したことだったそうです。

 浦久さんは言います。りんごが1足す1で2個になるのはわかる。でも、窓ガラスを伝わる水滴はどうか?小さな一滴と小さな一滴が合わされば大きな一滴になることもある。つまり、1足す1は2ではなく、大きな1になることもあるのではないか?

 しかし、浦久さんのこの質問と疑問に対して教師は、「そんな屁理屈ばかりでは、ろくな大人になれない」という怒鳴り声を返したそうです。

 小学生の素朴な質問に向き合おうとしない教師も教師ですが、このことで、高校卒業までずっと学校の勉強をボイコットしたのもどうよ、とは思いますが、浦久さんの考え方を君たちはどう受け止めますか?

 おそらく多くの人は二つの質問に対する「氷が溶けると春になる」、「一滴と一滴を足したら大きな一滴になる」という解答について、「そういう考え方もできるなあ」とか「ああ、なるほどね」と、納得してくれるのではないでしょうか。

 昨今、情報化やグローバル化が進み、社会の変化は加速度を増しています。先のことは複雑で予測困難な状況になってきているどころか、この先の社会は「正解のない課題」で占められるようになると予言する者さえいます。

 この、「正解のない課題」で占められる社会では、自ら目的を設定し、必要な情報を見つけて理解することで自分の考えをまとめたり、相手にふさわしい表現を工夫したり、多様な人々と協働しながら目的に応じた「なるほどね」をみんなで見つけ出していくことが必要になります。この「なるほどね」が「正解」ならぬ「納得解」と言えるものです。

 そして、いま述べた「なるほどね」イコール「納得解」をみんなで見つけ出す手順が、「探究的な学び」の手法であり、このことが「正解のない課題で占められる」であろう社会における課題解決のために必須なのです。

 一人でも多くの生徒が、そろそろ「ドラえもんの暗記パン」のような学びからの脱却を図り、「探究的な学び」に目覚めてくれることを期待して、令和5年度前期始業式の式辞とします。

(2023年4月7日体育館にて)

令和5年度 PTA入会式校長挨拶 (2023/04/06)

校長 鈴木雅文

 校長の鈴木雅文です。お子様の御入学、おめでとうございます。最初から私事になりますが、私の次男坊も本日別の高校の入学式を迎えました。孫がいそうな外見ではありますが、実はお子様の同級生の父親ですので、同い年の子供をもつ親として情報交換や意見交換ができたら幸いです。

 それはさておき、本校の生徒たちは、PTAの皆様からの、学校祭を始めとする学校行事や部活動への物心両面からのあたたかいバックアップを受けて、明るくのびのびと学校生活を過ごしています。

 また、この3月までの令和4年度は、コロナ禍にあっても、PTA役員・理事の皆様方を中心に、楽しく積極的にPTA活動がすすめてこられたことに感謝しています。新入会員の皆様も、コロナによる活動制限は大幅に緩和されることと思いますので、西高のPTA活動を本来の形に戻していくために、可能な限りPTA活動に積極的に関わっていただくようお願い申し上げます。

 さて、この場をお借りして、2点お話させていただきます。

 1点目は、今年度から実施する2学期制についてです。4月から9月末までを前期、それ以後を後期とし、定期考査は中間、期末各2回ずつの年間4回とします。今までは定期考査を5回実施してきたので、定期考査の回数が減ると子供が勉強をしなくなるのではないかという不安をもたれるかもしれないので、その経緯について説明します。

 平成30年に告示された新学習指導要領に基づく教育課程が、学年進行で現在の新2年生から実施されています。新学習指導要領による学習の評価については、「観点別学習状況の評価」、これには3つの柱として「知識・技能」の観点、「思考・判断・表現」の観点及び「主体的に学習に取り組む態度」の観点の評価に基づくこととされています。そして、それら3つの観点を総合的に評価して評定、(これはおなじみの「5・4・3・2・1」ですが、)をつけることになります。ここで課題になるのは、定期テストなどのペーパーテストでは「知識」の観点や「思考・判断・表現」の観点は評価が可能ですが、「主体的に学習に取り組む態度」はある程度の期間、生徒を観察することなどが求められるため、ペーパーテストは評価方法として向いていないことです。

 したがって、「主体的に学習に取り組む態度」を評価するために、定期テストを減らし、評価の機会のスパンを確保するため、2学期制を導入することとしましたので、どうか御理解ください。なお、例えば数学のように比較的短い期間で計算力などのスキルが身についているかどうかなどを確認することが必要な教科においては、定期テストとは別に学年で一斉テストを課す場合もありますので御了解ください。

 2点目です。令和4年4月1日から施行された改正民法により、お子様は本校在籍中に成年年齢に達します。この改正は、若年者の自己決定権を尊重し、また、若者の積極的な社会参加を促し、社会を活力あるものにすることを狙いとしており、その趣旨に疑問を挟むものではありません。

 しかし、生徒は未だ成長の過程にあって、社会的に自立するためには支援が必要であり、とりわけ、本校のようにほぼ100%の生徒が卒業後は上級学校への進学を希望する状況では、経済的にはまだまだ保護者の皆様の支援が必要となります。

 したがって、お子様が成年年齢に達した後も、生徒指導や進路指導、各種の手続きや授業料・学校徴収金などの費用の納付などについては、引き続き御協力いただきますよう、お願い申し上げます。なお、令和8年度に開設が決まりました附属中学校など、中高一貫教育校にかかる説明については、来月のPTA総会のごあいさつで少し触れたいと思います。

 これから3年間、西尾高校の教育活動に対する御理解、御協力を賜りますことをお願いしまして、少し長くなりましたが挨拶とさせていただきます。

 ありがとうございました。

(令和5年4月6日 体育館にて)

令和5年度 入学式式辞 (2023/04/06)

 私は名鉄西尾線で通勤しています。四月の声を聞くと、車内には真新しいスーツに身を包み、目を輝かせた新入社員とおぼしき若者をしばしば見かけることができます。ああ、出会いの季節がやってきたな、と感じる時です。

 本日、令和五年度愛知県立西尾高等学校入学式を挙行いたしましたところ、PTA会長・山下真司様をはじめとするPTA役員の皆様並びに新入生の保護者の皆様方の御臨席を賜りましたことに厚く御礼申し上げます。

 ただ今、入学を許可しました三百六十名の新入生の皆さん、創立百五年の輝かしい歴史と伝統のある、本校へようこそ。教職員・在校生徒を代表し、心から歓迎いたします。

 また、こうして入学の時を迎えた、新入生の喜びの大きさもさることながら、本日までわが子の健康と幸せを願いながら、お子様を育くんで来られた保護者の皆様の喜びもひとしおのことと拝察いたします。心よりお祝い申し上げます。

 さて、皆さんの高校生活のスタートである本日、一つ伝えたいことがあります。皆さんは、本校のスクール・ポリシーを知っていますか。そしてその中の「入学を期待する生徒像」を調べてくれたことがありますか。生徒像は三本柱からなっており、そのうちの一つはこのようになっています。「他者や社会の価値観を共有しながら、自分の考えを言葉で表現したり、良識ある行動を取ったりすることができる人」。この中でも私は、「自分の考えを言葉で表現」できることが、高校生活を過ごすにあたって、重視されることだと考えています。

 というのは、西高には三年後、附属中学校が開設され、探究型学習を重視する併設型中高一貫教育校としてスタートすることが決まっています。探究型学習には「自分で課題を立て、主体的に、また、みんなと協働して学習に取り組むとともに、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現ができるようにする」ことが求められています。つまり、「みんなと協働して」学習に取り組んで「まとめ・表現ができる」ようにするためには、自分の考えを自分の言葉でみんなに伝えることが前提になるのです。

 しかし、見ず知らずの人間の中で自分の考えを堂々と発表することは恥ずかしい、勇気がない、という気持ちも理解できます。そこでまず初めにこのあと教室へ戻ったら、自分の席のまわりの仲間と「はじめまして」と、あいさつを交わすことから始めたらどうでしょうか。「あいさつは社会の潤滑油」です。あいさつを積極的にかわして、自分の言葉をまわりに伝えやすい環境をみんなでつくっていきましょう。

 保護者の皆様、本日、大切なお子様をお預かりしました。教職員一同、心を込めてお子様を鍛え、成長させてまいります。そのためには、本校の教育活動に対する保護者の皆様の御理解と御協力を欠かすことができません。今後とも本校の教育活動に御支援を賜わりますよう、お願い申し上げます。

 結びに、皆さんが充実した西高生活を送り、自分の進路目標を達成して笑顔で卒業することを願い、式辞といたします。

令和五年四月六日

愛知県立西尾高等学校長  鈴木雅文

令和4年度

令和4年度 3学期終業式式辞 (2023/03/20)

 昔から、一月、二月、三月は、それぞれの単語のはじめの音に掛けて「一月は「行」く、二月は「逃」げる、三月は「去」る、と言います。この三学期はその通り、君たちにとってもあっという間に過ぎ去ったのではないでしょうか。そして、来年度以降、西高では二学期制の導入とともに、三学期自体がなくなります。この終業式は西高最後の三学期終業式となります。

 三月は、別れの月です。今月三日には先輩たちが卒業しました。今自分のいるクラスは、今日で解散です。先々週の球技大会などを通じて、クラスの良い思い出をつくることはできましたか。また、今月末で退職や転勤される先生方もいらっしゃいます。月末頃に新聞などで発表されますが、そこにお世話になった先生のお名前があれば、ぜひ離任式などで感謝の意を表してください。

 そして、三月が別れの月ならば、四月は出会いの月です。九日には合格者発表を行い、四月六日には三百六十名の新入生を迎えます。また、クラス替えも行われ、新しいクラスメイトや新しい先生に出会うことになります。

 新たな、といえばこの春休み中に学校生活の在り方も新しく変わります。それはマスクの着用についてです。文部科学省は三月十七日に通知を出し、それによると「生徒及び教職員については、学校教育活動にあたって、マスクの着用を求めないことを基本とすること」、つまり今まで多くの場面でマスクの着用が求めらていたのに、その対応が百八十度変わることになります。

 もっとも、花粉症がひどいなど、マスクをつけたいと思う生徒もいるだろうことから、学校がマスクをつけること、外すことを強いることはありません。しかし、基本は「マスクの着用は求めない」なので、例えば「顔を見られたくないからマスクで隠す」というのは少しどうかな、と思います。四月は出会いの月。新しい友達に素顔を見せることによって新しい関係も育ちやすくなるのではないでしょうか。

 明日から春休みです。昨日は野球部が公式戦初戦を突破し、明日はダンス部の公演会。二十六日には吹奏楽部のハルコンが、剣道部女子が全国大会に出場するのをはじめとして、来月になれば各運動部において、県大会、東海大会、全国大会につながる大会が始まります。新三年生は最後の大会です。練習を積んで、納得のいく結果を残してください。西高生の活躍を期待しています。

 以上で最後の三学期終業式の式辞とします。

令和4年度 卒業証書授与式式辞(2023/03/03)

 本校教室棟の4階廊下より、遠くに真っ白な三角形の木曽御嶽と、白い山並みが連なる中央アルプスを望むことができます。その山々の雪の、神々しい白さに、厳しかった冬を思い、そしてその山々の雪の、きらきらとした輝きに、力強い春の日差しを思う季節になりました。

 本日、PTA会長・山下真司様、同窓会長・杉田明弘様をはじめ、御来賓・御家族の皆様の御臨席を賜り、愛知県立西尾高等学校第75回卒業証書授与式を挙行できますことは、この上ない喜びであり、高いところからではございますが、皆様に厚く御礼申し上げます。

 ただいま、卒業証書を授与しました352名の皆さん、卒業おめでとう。

 君たちは3年前、世界中で新型コロナウイルス感染症の脅威が深刻化する中、この西尾高校に第一歩を記しました。以後、今日まで君たちの高校生活は、全てコロナとともにあったといっても過言でありません。入学式のあくる日からの臨時休校に始まり、時期を変え、行先も伊勢志摩に変えた1泊2日の修学旅行。日々の黙食、友だちの素顔が思い浮かばないマスク着用の日々。しかし、それらの苦境を乗り越え、今ここに集う君たちの希望に満ちた表情を見るにつけ、今後の幸せと成功を祈らずにはおれません。輝かしい未来が君たちを待っていることを心から願っています。

 と、今私は「未来が君たちを待っている」と述べましたが、はたして未来とは、まだ見ぬ遠い先で、その時が来れば君たちを待ち受けているものなのでしょうか。文筆家であり、文化芸術プロデューサーの浦久俊彦(うらひさ としひこ)さんは、その著書「リベラルアーツ」の中で、未来についてこのように述べています。

 「未来は、「ぼくたちの先にある何ものか」ではなく、ぼくたちの「背後からやってくるもの」である」と。そして、日本語では、例えば「5日後」という未来は「後(うしろ)」という文字で示し、例えば「10日前」という過去は「前(まえ)」という文字で示すことを例にして、「まさに未来が「後(うしろ)」からやってきて、過去が「前(まえ)」にあることを指している、つまりぼくたちの未来は全て、過去の投影であると考えるべきである」と論を進めています。この考え方によれば、自分の未来や人類の未来は「過去に聞け」ということになります。

 では、「過去に聞く」ための具体的な手段は何でしょうか。

 一つは、書物にあたること、つまりは読書です。過去に著わされた書物には、ありとあらゆるその時代の世界が詰まっています。読書を通じて過去の人々の声に耳を傾けることができれば、その声はまるで、仏様の背後から差し込む後光のように、自分の未来を照らすことでしょう。自分の未来への道しるべとして、君たちが今後一層、読書に親しむことを希望します。

 二つ目は、自分が過去いた場所に戻ることです。

 私のところには毎年、西高の同窓生より「このたび、ぼくたちは結婚することになりました。ついては、結婚式の生い立ちムービーに西高の風景を映しこみたいので、校内を撮影する許可をいただけませんか」という依頼が舞い込んできます。西高の存在は、そして自分が西高生だった時代は、過去に西高にいた人たちの胸の中に生き続けているのですね。君たちも、未来に自信がなくなった時には、過去いた場所である西高を訪ねたり、その仲間と再会したりして、自分の未来を確かめてくれると嬉しいです。そして、令和8年4月に附属中学校を開校し、新たな時代へステップを踏みだす西高の応援団になってくれることを願っています。

 最後になりましたが、御家族の皆様、本日は誠におめでとうございます。たくましく成長したお子様の姿に、感慨もひとしおのことと存じます。また、これまでの本校の教育活動に寄せられました、皆様の深い御理解と御支援に対しまして、厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

 母校を巣立ちゆく卒業生352名の、健康と幸せを祈念し、式辞といたします。

令和5年3月3日
愛知県立西尾高等学校長  
鈴木 雅文

令和4年度 3学期始業式式辞(2023/01/10)

 皆さん、あけましておめでとうございます。いよいよ3年生は4日後に大学入学共通テストに挑みます。日ごろの努力の成果を発揮できることを願っています。

 さて、今までに私は始業式などの式辞で「似ているけど大違いなことば」として、「ためになる」と「だめになる」、「しでかす」と「しくじる」を取り上げました。今回はその第3弾として「わかる」と「かわる」をお題にして話します。

 「わかる」と「かわる」、これは実は私のオリジナルではありません。昨年の12月の人権週間にむけて愛知県が製作した人権啓発ポスターの受け売りです。この人権啓発ポスターは毎年大変よくできているので、ぜひネットで検索してみてください。

 さて、「わかる」と「かわる」は応用範囲が実に広い。例えば、勉強。学習内容が「わかる」と、勉強に取り組む姿勢が「かわる」。例えばスキー。スキー板に乗れている感覚が「わかる」と、滑りが「かわる」。例えば友だち関係。友だちの悩みや気持ちが「わかる」と、友だちとの接し方が「かわる」。つまり、自分が何かに気付く、すなわち「わかる」ことで、自分の考えや行動が「かわる」ということです。

 さらにこの「わかる」と「かわる」が優れているところは、この順序を変えて「かわる」と「わかる」にしてもオーケーであることです。例えば、いつも朝ギリギリ間に合う電車に乗って来る生徒。一本前の電車に乗り「かわる」だけで、心と行動に大きな余裕ができることが「わかる」。例えば、部活動で先輩が引退して、部長を「かわる」とその大変さが「わかる」。つまり、現状を変えるためには、「かわる」というアクションが必要で、その結果はやがて「わかる」ということです。

 自分は「わかる」のちに「かわる」ことが多いタイプですか、それとも「かわる」のちに「わかる」ことが多いタイプですか。自問してみると自分の性格がつかめるかもしれません。

 3年生はいよいよ旅立ちの季節です。悔いのないように旅立ちの支度を整えてください。1・2年生は4月には新入生を迎えます。先輩として恥ずかしくない振る舞いができるよう、自分を磨いてください。以上、式辞とします。

(2022年12月23日、体育館での終業式)

令和4年度 2学期始業式式辞 (2022/08/30)

 夏休みが終わりました。しかし、この後すぐにある学力テストや一週間後に迫った学校祭の準備対応で、夏休みが終わったという感傷に浸っている間もないかもしれません。私にとってこの夏は、全国高等学校体育連盟登山部長としての最後のインターハイ運営を香川県で行い、全国各地の登山を愛する高校生たちと交流できた夏でした。教員になって三十七年。最近は徐々に「最後の」という修飾語がつくことがらが増えてきて、教師としても次の世代にバトンをつないでいく年齢になったなあ、と感慨深いものがあります。

 さて、夏休み中の七月二十七日、西尾市長が主催する「若者と語るまちづくりトーク」が本校で開催され、生徒会メンバー十人と、西尾市の中村市長が「市内の中学校及び高校の生徒会との交流」などをテーマに懇談しました。生徒会長たちが、「市内の高校や中学校はじめ、外部との交流を活発にするための効果的な方法を教えてほしい」と尋ねると、市長から「ボランティア活動を一つの手段にするとよい」と助言をいただきました。コロナ禍でボランティア活動の場が狭まったとはいえ、私もボランティア活動は生徒会活動に十分生かしていくことができると思います。

 例えば先日、鶴城小学校の校長先生がお越しになった折、雑談の中で西高生が鶴小生や、鶴小に併設されている日本語初期指導教室カラフルに通う子供たちと交流できるといいね、という話になりました。ボランティア活動の芽はいろいろなところに見つかるもので、こんな話も踏まえながら、生徒会を中心にいろいろなボランティア企画を提案できるといいと思います。

 「まちづくりトーク」の話に戻って、西高生の「西尾市は、若い世代に何を求めているか知りたい」との問いかけに中村市長は、「チャレンジすることを大切にしてほしい。今は昔より親が子供に失敗をさせないようにしていると感じる。失敗せずに一生過ごせる人はいないし、失敗したからこそわかる大切なことがある。失敗を怖がって挑戦をやめてしまう人生を歩んでほしくない。」と強調されたことが印象に残っています。挑戦せず、無難な人生を過ごすのもその人の選択の一つですが、人生は一度限りだからこそ、失敗を恐れずにチャレンジしていくことは尊いことだと私は思います。

 また、「まちづくりトーク」で、生徒会役員諸君が熱心に懇談に臨む姿を見て、生徒会活動の一層の活性化の必要とその可能性を西高生は秘めているということが確認できました。今日は折しも後期生徒会役員選挙の公示日です。何ができるかわからないけれど、まずは何ができるか提案してみたい生徒は、積極的に名乗り出てもらえるとよいと思います。

 学校祭準備もいよいよ本番です。失敗を恐れずにチャレンジして、悔いのない学校祭にしてください。楽しみにしています。

令和4年度 1学期終業式式辞(2022/07/20)

 不安定な天気が続くとともに、コロナも広がりを見せており、本日の体育館行事は、学校全体で「密」な状態になることを避けるために、やむを得ず放送により実施することにしました。報道によると、クラスターが次々に発生していて、その多くが学校と高齢者福祉施設だということです。今のところ行動制限はかかっていませんが、基本的な感染症対策を徹底して過ごすように心がけてください。

 さて、昨日までで1学期の個別懇談会が終わりました。昨年度までこの会は、「保護者会」と呼んでいたのですが、今年度からは「個別懇談会」としました。なぜ会の名前を変更したのか。これはこの4月に施行された改正民法によって、成年年齢が18歳に引き下げられたことに関係しています。

 答えを教えるのは簡単ですが、「保護者会」と呼ぶのをやめたことと18歳成年との関係について、在学中に必ず成年年齢に達する西高生全員が、少し考えてみてください。

 ではここからは、18歳になって成年に達すると、自分一人で契約できることになるために、私が少し心配していることを話します。それは安易に契約を結ぶことと、だまされて契約を結ぶことです。

 そもそも契約とは何かというと、約束のうち、法律が適用されるものを指します。例えば、ラーメン屋に行って「塩ラーメン一杯お願いします」と注文し、店の人が「はい了解、塩ラーメン一丁!」と自分と相手が合意すれば契約が成立します。そして、自分には塩ラーメンを受け取る権利と代金を支払う義務が発生し、義務を果たさないイコール代金を払わなければ無銭飲食となって、法律的に罰せられることになります。

 ちなみに、彼女と「明日、デートする約束」などは、法律が適用されないので契約ではなく、したがってデート当日、彼女にデートをドタキャンされても法律的に彼女を罰することはできません。

 契約をすると、例えば「気が変わった」など自分勝手な理由で契約をやめることはできません。成年者の結んだ契約は気軽になかったことにはできないのです。だからこそ、契約をする前には慎重に周囲とも相談しながらよく考えて進める必要があります。契約は簡単には取り消すことができません。くれぐれも安易な契約を結ばないように。

 また残念なことですが、世の中には悪意をもって「人をだまそうとする人」が一定数います。学校の目も届きにくくなる夏休みを狙って「人をだまそうとする人」が近づいてくるかもしれません。キャッチセールスなどは無視し、断るときはきっぱりと「いりません」と伝えてください。

 契約について、未成年者ならば、自分のこづかいの範囲を超える契約については保護者の同意が必要なので、その同意がない場合は未成年者取消権という強力なカードを切って契約を取り消すことができますが、成年者には法律的に守ってくれるカードがありません。

 1、2年生は、今は未成年者ですが、西高に在籍しているいつかの時点で成年になります。決して他人ごとではありません。そして、成年者である3年生のみなさん、「自分は大丈夫」と言い切るだけの社会性はまだ身についていないことを自覚しつつ、「安易に」そして「だまされて」契約を結ばないよう、過ごしてください。

 以上で放送による終業式式辞とします。

 (2022年7月20日)

長崎の海(2022/05/09)
【修学旅行のしおり 巻頭言】

 長崎の町を歩くと、さまざまにつけて異国情緒を感じることができます。江戸時代初期、幕府は鎖国政策をとりますが、長崎だけは中国とオランダに開かれた海をもつ港町だったことは日本史選択者じゃなくても一般的な教養としてみんな知っていますね。異国情緒を醸し出す要因は、幕末に調印された安政の五か国条約において、米、英、仏、露、蘭を相手に貿易が本格的に開始され、外国人(グラバー等)が居留し始めたことも影響していると考えられますが、やはり横浜、神戸、函館などの例からも、古くから外国に開けた港と海をもっているということが大きいのではないかと思います。

 また、次の数字を見てください。600Km、700Km、800Km、960Km。これは、長崎市からそれぞれソウル市、西尾市、上海市、東京都までの直線距離。つまり、長崎は西尾より韓国の首都に近く、東京より中国一の大都市・上海に近いという位置にあります。長崎の異国情緒は、古くから外国に開かれた港町という歴史的経緯だけでなく、地理的な位置からも確認できます。この点は横浜や神戸には当てはまらない、長崎の大きな特色でしょう。

 さて、長崎県は愛知県ではあまりよく知られていないのですが、全国有数の水産県でもあります。長崎、佐世保、松浦などの日本有数の総水揚量を誇る漁港が目白押しで、漁業生産量は2016年で286,000tと北海道に次いで第2位、また、離島が多く、リアス式海岸になっているところも多いため、必然的に海岸線は長く複雑になります。ちなみに、外周が100m以上の島の数は971島、第2位の鹿児島県は605島ですからダントツ首位、さらに長崎県は面積では北海道のわずか20分の1程度なのに海岸線の長さは北海道に少し足らない4183Km(全国の12%)で第2位なのです。さらに北上する対馬暖流、黄海からの冷水、九州からの沿岸水などが流れ込み、多くの島々と複雑な海底地形によって素晴らしい漁場があちこちにあるのです。

 そのため、漁獲量だけでなく、漁獲できる魚種は300種類以上で全国1位ともいわれており、アジ、ブリ類、タイ類、イサキ、サザエの漁獲量、フグ類やクロマグロの養殖生産量、加工品ではイワシの煮干しの生産量がそれぞれ全国1位です。宿泊するハウステンボスのホテルから大村湾を、長崎のホテルから長崎湾を眺め、そのよい景色に感動するだけでなく、その海が豊饒の海であることも確認してもらいたいですね。

 この「修学旅行のしおり」には、2年生諸君の事前研究の成果が満載されています。それらも参考にしながら、2泊3日のこの修学旅行を、コロナ対策を十分に行ったうえで新しいことを学び、経験する機会とすることによって、高校時代も後半戦へと向かう君たちの西高生活の糧となることを祈っています。

大学受験には、戦略が必要である(2022/05/09)
【進学の手引き 巻頭言】

 世の中に数多あるおよそ「試験」と名の付くものは、大まかに「資格試験」と「競争試験」に二分できる。「資格試験」は自動車等の運転免許試験が好例である。運転免許取得には技能試験と学科試験ともに合格することが必要だが、後者を例にとると、各都道府県の運転免許試験場等において受験し、全問の90%以上正答できれば誰でも合格となる。つまり、資格試験には募集定員がないのであり、合格できるかどうかは100パーセント自分との戦い、絶対評価によることになる。

 しかし、君たちが挑む大学入学試験は、募集定員があるために必ず他人との競争になる。自分は素晴らしい成果を挙げていても、他人がそれ以上の成果を挙げていればこれは不合格ということ、つまり相対評価されるということだ。そこで、模擬試験を受ければ相対化された結果が偏差値や「A判定」などで示されるわけである。

 国立大学協会は今年1月、「2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度にかかる基本方針」(方針)を発表した。その「はじめに」にはこうある。一部引用してみよう(下線は全て鈴木が付した)。「今後も様々な属性や特性のある学生に広く門戸を開き、さらに多様な能力・適性、興味・関心等を多面的・総合的に評価する入学者選抜を行っていく。

 さらに、総合型選抜及び学校推薦型選抜についてはこう言及する。「一定の学力を担保した上で、調査書等の出願書類に加えて、小論文や面接、プレゼンテーションなど多様な評価方法を活用し、これら学力試験以外の要素を加味した(中略)入学者選抜の取組を加速・拡大する。」

 大学は、国際的な競争に立ち向かうためにも「多様な」能力をもつ学生を求めている。最近しばしば使われている言葉を借りれば「とがった能力」を求めているとでもいえようか。さらに「方針」はこうも宣言する。「知識・技能を受動的に習得する能力を重視する教育から、能動的な学びや一人一人の個性及び学びのプロセスを重視する教育へと(中略)さらに進展させていく」。大学はもはや、与えられた教材の内容を卒なく理解するだけの学生を求めているわけではないことがよくわかるだろう。

 だから、受検には「戦略」が必要なのだ。君たち一人一人がもっているだろう「とがった能力」は一律でなく多様だ。高校時代に自分の多様な能力に気が付き、磨き、それを戦略的に大学入試に活用することによって、大学側のニーズに沿うことができる。ただし、その多様な能力には、君たちが心のよりどころにしている相対化の結果としての偏差値や「A判定」を付けることができない。自分に備わっているであろう「とがった能力」に気付いて伸ばすことは、ペーパーテストでは無理で、さまざまな経験を通じて生き生きした日々を過ごすことで可能になるのだろう。この半年で、というのは少しきついかな。

 ああ、私は授業や課外や模擬試験を軽視せよ、と言っているのではない。「一定の学力を担保した上で」とあるでしょう。学力をつけるための学びも重要ですよ、当然。

令和4年度 1学期始業式式辞(2022/04/07)

 西尾高校百有余年の歴史の中で、今回が初めてとなる男女混合名簿による整列をして、全校生徒が一堂に会し、令和4年度第1学期始業式を迎えました。少し違和感があるけれども、新鮮な気持ちを味わうことができているのではないでしょうか。

 昨日の入学式において、360名を新たに西高生として迎えました。今年度は生徒総勢1077名でのスタートです。1年生は早く西高生活に慣れ、2年生は学校の中軸たる認識をもち、そして3年生は最上級生の立場を自覚し、早々にスタートダッシュできるようにしましょう。

 さて、君たちには、似ているけどその意味の違いがうまく説明できない言葉はありませんか。私は数年前、仕事が回らない日々を過ごしていた時、しばしば「しくじり先生 俺みたいになるな」という番組を録画して見ていました。そのときふと、タイトルが「しくじり先生」じゃなくて、「しでかし先生」だったらどんな番組内容になるのかなあと思ったのです。変な人ですね。

 そこで、今日のお題は「しくじる」と「しでかす」です。その前に、君たちは、「しくじる」ことと「しでかす」こと、どちらをよりネガティブな言葉としてとらえますか。少し自問してみてください。

 私は、権威があるとされている5種類の国語辞典で、それぞれの言葉の意味を調べてみました。まず「しくじる」は、全ての辞典に「失敗する」、3つに「やりそこなう」とありました。そして「しでかす」は、全ての辞典で「やってのける」とありましたが、3つには「やらかす」ともありました。

 どうですか。「しくじる」は失敗する、やりそこなうという、ネガティブな状況のみに使われることに異論はないとして、問題は「しでかす」の方です。

 「やってのける」というとポジィティブさも感じますがしかし、「やらかす」といわれると、ネガティブな印象しかありませんね。つまり、「しでかす」という言葉は、大変よいことでも大変悪いことでも、普通では考えられないことをしたときに用いられるのです。3年生は、君たちの西高での努力の成果が、今から言う例文どおりになるよう、頑張ってくださいね。

 「大学入学共通テストでしくじらずに、〇〇大学という難関大学に見事合格するという、大それたことをしでかした」

ただし、2種類の辞典には「しでかす」について、「多くはその結果が悪いこと、よくない行為の時に使う」との注釈が加えられています。よい意味での大それたことをしでかすのは、簡単ではないことを肝に銘じてください。

 令和4年度が、君たちにとって「自分のためになる」1年であり、決して「自分がだめになる」ことがないよう祈って、式辞とします。

(令和4年4月7日 体育館にて)

令和4年度 PTA入会式挨拶(2022/04/06)

 校長の鈴木雅文です。お子様の御入学、おめでとうございます。

 本校の生徒たちは、PTAの皆様からの、学校祭を始めとする学校行事や部活動への物心両面からのあたたかいバックアップを受けて、明るくのびのびと諸活動に取り組んでいます。

 また、コロナ禍にあって、親睦の機会が減ったことはいささか残念ではありますが、PTA役員・理事の皆様方を中心に、楽しく積極的にPTA活動がすすめられていることに感謝しています。新入会員の皆様も、コロナの状況によっては制限されることもあろうかとは思いますが、可能な限りPTA活動に積極的に関わっていただけますと幸いです。

 さて、この場をお借りして、2点お話しさせていただきます。

 1点目は、入学式の式辞でも少し触れましたが、民法改正に伴う18歳成年についてです。今回の法改正は、若年者の自己決定権を尊重するものであり、若者の積極的な社会参加を促し、社会を活力あるものにする意義を有するものであり、その趣旨に疑問を挟むものではありません。

 しかし、生徒は未だ成長の過程にあって、社会的に自立するためには支援が必要であり、とりわけ、本校のように100%近い生徒が卒業後は上級学校への進学を希望する状況では、経済的にはまだまだ保護者の皆様の支援が必要となります。

 したがって、お子様が成年年齢に達した後も、生徒指導や進路指導、各種の手続きや授業料・学校徴収金などの費用の納付などについては、引き続き御協力いただきますよう、お願い申し上げます。また、学校からの案内文書などについても、引き続き保護者様宛とすることを考えています。

 2点目は、一人一台タブレットの導入についてです。

今年1月に愛知県の補正予算によって、令和4年度から全県の県立高校生に一人一台タブレットが貸与されることとなりました。昨年度はタブレットの導入にかかる費用を保護者に負担していただくことになるのでは、という話も出ていたのですが、その話はなくなりましたので御安心ください。

 しかし、今年度からの導入ということではありますが、現在タブレットが全国的に大変品薄になっているため、整備が完了するのは秋口あたりになる、という情報も得ております。それまでの間はお子様が所有するスマートフォンなどを用いて調べ学習などを進めていくことになりますので、御承知おきください。なお、スマホ等をお子様に持たせていない、という場合は、学校のタブレットを貸し出すことになりますので、その旨をホームルーム担任にお申し出ください。

 これから3年間、西尾高校の教育活動に対する御理解、御協力を賜りますことをお願いしまして、挨拶とさせていただきます。

 ありがとうございました。

(令和4年4月6日 体育館にて)

令和4年度 入学式式辞(2022/04/06)

 先日、本校の校歌でも歌われる八面山に上がってきました。南には輝く三河湾に佐久島が浮かび、西には知多丘陵の向こうに鈴鹿の山並み、北を仰ぐと名古屋の高層ビルや雪を頂いた木曽の御嶽、遠くには加賀の白山を望み、そして、目を近くに移せば、春の日差しの中に、みなさんがこれから母校とする西尾高校の校舎がゆるぎなく建っている姿を見ることができました。

 ただいま入学を許可した360名のみなさん、入学おめでとう。歴史と伝統に彩られ、進取の気質を忘れずに歩み続ける西尾高校へようこそ。教職員を始め関係者一同、みなさんの入学を心よりお祝いします。

 また、本日の入学式には、正副PTA会長様に御来賓として、さらに、多くの保護者のみなさまに御臨席いただきました。厚く感謝申し上げます。

 さて、私がみなさんに、西高で身に付けてほしいと期待することについて、今日は1点に絞ってお話します。

 それは、「自分で考える力を身に付け、自分の言葉で伝えることができる」ことです。みなさんは高校受験にあたって、中学校などから与えられた、たくさんの問題を解いてきたのではないでしょうか。このスタイルの勉強は、自分は問題を解いたけれど、自分で「なぜだろう」と考えて問題を見つけ、それを解いたわけではありませんね。

 「自分で考える力を身に付けること」とは、自ら課題を設定し、自ら考えながら課題解決していく、能動的でアクティブな学びに向かう力を身に付けることです。西高では、ぜひ、この力を体得してください。

 さらに、「自分の言葉で伝えることができる」ことも大切です。我が国の社会はかつて、集団による農作業を基盤とする均質的な村落を単位として成り立っており、村では年間の作業スケジュールや役割がおのずと決まっていて、集団の中では自分の役割を果たすことがすべてでした。何かを変えたり、役割にないことをしたりするのは、むしろ集団の迷惑になることに等しかったのです。このような社会では、「黙っていても分かり合える」ため、他人に対して自分の考えを自分の言葉で伝えなくてもよかったのです。

 しかし、今はグローバリズムの進展と相まって、さまざまな分野で多様な価値観が行き交う時代です。このような状況では、「黙っていても分かり合える」はずは絶対になく、自分の価値観を自分の言葉や文章で他人に適切に表現し、主張する力が求められます。自分の言葉で自分を表現する力を、ぜひ西高で育んでください。

 保護者の皆様、本日まで慈しみ、育んでこられましたお子様の姿は、皆様の目にはどのようにお映りでしょうか。感慨もひとしおのことと存じ、心からお祝い申し上げます。

 そのお子様は、民法の改正により、成年年齢が18歳になったことで、西高在籍中には法律的に大人になります。

 このように、子供と大人がグラデーションする時期だからこそ、生徒の健全な成長のために、家庭と学校の連携が一層重要になると考えます。今後さまざまな側面から保護者の皆様の御助力をいただければ幸いです。

 結びに、入学式にあたり、新入生のみなさんのこれからの3年間が充実した日々となるように心から願って、式辞といたします。

令和4年4月6日
愛知県立西尾高等学校長  
鈴木 雅文