朝、矢作川の川面を吹き渡る風はいまだ冷たく、凜とした空気がみなぎりますが、それでも日ごとに強くなる陽の光に、少しずつ春の訪れを感じる弥生、3月になりました。
本日、このよき日に、PTA会長・手嶋和樹様をはじめ、御来賓の皆様、保護者の皆様の御臨席を賜り、愛知県立西尾高等学校第73回卒業証書授与式を挙行できますことは、この上ない喜びであり、高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。
ただいま、卒業証書を授与しました350名の皆さん、卒業おめでとう。
君たちは3年前、西尾高等女学校時代から続く、歴史と伝統に彩られた本校百年目の入学生として西高の門をくぐりました。1年生の時には、創立百周年記念事業に在校生として主体的に参加し、新たな伝統の1ページを刻んでくれました。その後も日々、校訓「進取、自主、克己」の精神に立って、学習、部活動、生徒会活動、学校行事などに積極的に取り組むことで、かけがえのない青春の日々を充実させ、本日、晴れて卒業の日を迎えたのであります。
とはいえ、この3年間の道のりは、君たちにとって決して平たんなものではなかったことと推察します。1年前、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、例のない長期にわたる臨時休業、インターハイ予選の中止、夏季休業の大幅短縮、学校行事の中止、縮小など、最終学年を迎えた君たちの学校生活は激変してしまいました。さらに、初年度となる大学入学共通テストについても、英語の民間試験活用及び国語・数学における記述式問題の見送りなど、突然制度が変更されて、準備を進めてきた君たちは、大いに困惑させられたことでしょう。しかし、それらの苦境を乗り越え、今ここに集う君たちの希望に満ちた表情を見るにつけ、今後の君たちの幸せと成功を祈らずにはおれません。
さて、コロナ禍は、私たちに多くのことを気づかせました。例えば、
・これまで当たり前だった、人と人とが対面して会話することに、時として制限がかかること
・国境が封鎖されることで、貿易を主軸とするサプライチェーンは、時として機能不全に陥ること
人類には幾度となく、地球規模のパンデミックを克服してきた歴史があります。したがって、コロナ禍が収束するアフターコロナの時代は必ずやってきます。そして、アフターコロナの社会では、次の二点が求められることになるでしょう。
1点目は、オンライン化された使い勝手のよいバーチャル空間を作ることで、感染症を予防しつつ、ストレスなく日常生活を過ごすことができること。
2点目は、例えば、輸入に依存している石油などの化石燃料から得ているエネルギーを、太陽光などの再生可能エネルギーに転換を進めることで、エネルギー供給が国内で完結するサプライチェーンを作り、感染症拡大などの非常事態でも社会経済活動を止めないこと。
このような社会の実現のためには、様々な分野で新たな視点からイノベーションが求められ、これから君たちは、それぞれの立場でその実現に取り組む必要があるのです。
そのためには、どんな資質が必要になるでしょうか。
私は1980年代に学生時代を過ごしました。当時、我が国の経済は安定成長期にあり、終身雇用制は守られていて、いわゆる「いい」大学を卒業して、「いい」企業に入社すれば、老後までの生活設計は簡単に描けた時代でした。いわばレールが敷かれていて、レールに乗る、つまり電車に乗りさえすれば、目的地に確実にたどり着いたのです。
しかし、現在は不確実性の時代です。大学を出る、就職する、定年まで勤め上げる、安心の老後が待っている、とは必ずしも言えない。いわばレールが敷かれていない時代になったといえるでしょう。したがって、アフターコロナの時代をリードしていく君たちには、車のドライバーたる資質が求められるのです。
車は、電車とは違い、乗りさえすれば目的地に到着するものではありません。自分で目的地までの走行プランを立て、自分の判断で速度を上げたり落としたり、停まったりと、すべて自分で判断する必要があります。私は、車を操るがごとく、自分の人生の目的地に自分の判断で向かう力をもつことが、アフターコロナの時代をしなやかに生き抜く資質だと考えます。
西高で学び、考えた3年間、自分が培ってきた力をもとにして、次のステップでも大いに自分を磨いてください。これからの君たちの活躍を心から期待しています。
最後になりましたが、保護者の皆様、本日は誠におめでとうございます。たくましく成長したお子様の姿に、感慨もひとしおのことと存じます。また、これまでの本校の教育活動に寄せられました、皆様の深い御理解と御支援に対しまして、厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
母校を巣立ちゆく卒業生350名の、洋々たる前途に幸多からんことを祈念し、式辞といたします。
令和3年3月2日
愛知県立西尾高等学校長 鈴木雅文